欧州連合は平和への脅威である ー ジュリアン・ルイス

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第一次世界大戦の直接的な原因は、カイザー(ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世)がフランスに対する攻撃計画の一環としてベルギーの中立を犯したことにある。第二次世界戦の場合は、ポーランド分割の密約をスターリンと交わした後にヒトラーがポーランドを侵攻したことにある。どちらの場合も欧州の特定の国、あるいは複数の国と武力紛争を引き起こすかも知れないという可能性だけでは、ドイツの侵略を止められなかったのである。また、いずれの場合も、交戦国としてアメリカが遅れて参加したことが結果を大きく左右した。

なぜNATOは歴史上で最も成功した軍事同盟だと考えられるのか。答えは明らかに、アメリカが加盟していることの抑止効果である。このことは、潜在的な侵略国家がことを起こす前に世界最強の国と交戦することを考えなければならないことを意味する。なぜなら、北大西洋条約第5条に、加盟国のいずれかに対する攻撃は全加盟国に対する攻撃とみなすとあるからだ。

同様の想定によって1914年または1939年にドイツを抑止することができたかどうかはもはや知る由もないが、機能した可能性は高いだろう。1949年にアメリカ合衆国がすべての加盟国の防衛に関与することを担保したその瞬間に、北大西洋同盟は潜在的侵略国と対峙した際の計算を一変させた。よって、潜在的な侵略国は、労せずに利益を得ようとヨーロッパの弱小国を次から次へと狙い撃ちすることがもはやできなくなった。また、行使可能な軍事力を持つ強国が攻撃を受けた国を見て見ぬふりをする、という可能性に賭けることもできなくなったのである。

信頼に足る抑止のためには、十分な軍事力を持ち、かつそれが行使可能でなければならない。この二つの点において集団安全保障機構としてNATOは成功し、EUは失敗したのである。米国はEUに加盟していないので、EUはNATOの持つ抑止力をほんの一部しか借りることができない。また、NATO域外のEU加盟国への攻撃に対してアメリカが確実に反撃する保証はどこにもない。

独自の外交政策と軍事力を持とうとすることで(国防予算を恒久的に低く抑えられる)、EUはNATO発足前の不安定な状態を復活させるというリスクを冒している。NATOが保証するのは、加盟国が攻撃ないし侵略された場合に、その国のために第3次世界大戦に参戦するという厳粛な約束である。よって、単に第5条の発動が担保されていないからという理由で、NATOのメンバーシップを軽々しく拡大すべきではない。

その良い事例がウクライナだ。国内で自治権の拡大を進め、対外的には非同盟政策を維持することが、国家の一体性と独立を両立する最大のチャンスであったが、いまやこの国は深刻な分裂状態にある。いつもの手段(このケースではEU連合協定)を使って、ウクライナ全土を西側に組み込むという間違いを犯した結果、EUはロシアのプーチン大統領にクリミアと東部のロシア語圏を支配下に置く動機を与えてしまった。このあからさまな挑発行為なしに、プーチンがこれほど早い段階で侵攻したかどうか、または全く動かなかったかという疑問は将来の歴史家の議論に委ねたい。間違いなく言えることは、EUが余計な手出しをした結果、この国がおかれた地政学的状況を考えると、ウクライナはリスクのある方向に進んでしまったという事実である。

よく言われることだが、当然ながら21世紀においてロシアのような軍事大国が一方的かつ攻撃的に振る舞うことは受け入れ難い。ただし、20世紀においても同様に、過去の二度の大戦に突き進んだような振る舞いがドイツに認められていたわけではない。このようにリスクの高い地政学的環境において民主主義国家がどのように振る舞うべきか。これは倫理のみではなく効果の点から考えるべきである。EUは武力行使を伴う政策を実行する力もないのに、ウクライナをたきつけ、プーチンを挑発し、誰の利益にもならないことを行ったのである。

まさに、外的な影響を受けやすいヨーロッパが大きな間違いをしでかすことを恐れているがゆえに、アメリカ政府はイギリスのEU残留を望んでいる。しかし、この認識に欠如しているのは、EUという「構想」が共通外交政策を主張しているとき、いつも少数派となって発言を封じられてしまうEU内部にいるよりも、外部の立場から反対した方がイギリスにとって有利だという点だ。

私の考えは要するにこうだ。見せかけの共通外交安全保障政策を持つEUは、アメリカを除外したかたちでNATOの複製を作ろうとしている。しかし、EUが欧州でNATOとは別の存在として振る舞おうとすることで、アメリカがNATO加盟国としての義務に縛られないと考えるような状況がうまれ、そこに軍事衝突にうっかり巻き込まれるという古いリスクが蘇るのだ。さらに言えば、不確実な状況を作り出したことで、EUは、再び、誤算による戦争という亡霊を呼び覚ましている。例えば、もしEUが北大西洋条約第5条の適用外にある非NATO加盟国の利益をめぐってロシアと衝突した場合、アメリカは恐らく軍事介入するだろうが、ロシア政府はもしかしたらアメリカが介入しないと誤解するかもしれない。これは致命的な誤りであり、全ての当事者が誤りであったことに気がついた時には手遅れになっているのだ。

外的な脅威を抑止するという点に関して言えば、EUはNATOが果たす模範的な役割をまったく補強できていない。それどころか、共通外交・安全保障と称される政策は極めて危険である。それは北大西洋同盟を潜在的に弱体化させ、勝ち目のない戦争を引き起こすリスクがあり、さらにアメリカの介入の確実性を低下させて戦争の可能性を高めるだろう。

EUの指導者たちは、まるで戦死者が統一ヨーロッパという超国家に賛同しているとでも言わんばかりに、イギリスのEU脱退を支持する人々にフランスとベルギーにある広大な軍人墓地を訪れるべきだと騒いでいる。自由で立憲的な民主国家を守るために、イギリス人、そして占領下のヨーロッパで囚われの身となった人々の権利のために戦った者たち記憶を、EUの指導者たちは汚しているのだ。EU加盟国がそれぞれ自由で民主的で立憲的である限り、互いに再び戦争を起こす危険性はない。立憲民主主義国家が互いを攻撃することはないからだ。しかし戦争は専制国家同士、あるいは専制国家と民主主義国家との間に起こるのである。

EUは民衆が求めてもいない超国家政府を欧州に作りだそうとしている。そして、それによって本来は避けるべきだと主張してきたはずの将来の対立の種を、自ら蒔くという危険を冒しているのだ。

執筆者:ジュリアン・ルイス (保守党下院議員・下院国防委員会委員長)


原文は、2016年5月20日付のRUSI Journalに掲載されたThe European Union is a Threat to Peaceです。