北朝鮮ミサイル発射(理事長 秋元千明)

北朝鮮は2月7日午前9時31分(現地時間午前9時1分)、人工衛星の打ち上げを名目にした長距離弾道ミサイルを発射した。ミサイルは、北朝鮮北西部の平安北道東倉里から発射され、南方向へ飛行、沖縄県上空を通過し、フィリピン沖合の太平洋上空まで飛行した。

アメリカ軍の北米航空宇宙防衛司令部は、弾道ミサイルから分離した二つの物体が、地球の周回軌道に乗っていることを確認したが、北朝鮮が主張する人工衛星かどうかは確認できていない。北朝鮮はこれを、「地球観測衛星『光明星4号』」と説明している。

今回の北朝鮮の事実上のミサイル発射を分析するとともに、北朝鮮のミサイル開発計画についてポイントを整理しながら考えてみたい。


Q. まず、北朝鮮は、あくまで弾道ミサイルの実験ではなく、平和目的の人工衛星の打ち上げだと主張しているが、実際はどうなのか?

A. そもそも、ミサイルの発射実験と宇宙ロケットの打ち上げを分けて考えること自体に合理性がない。ロケットというのは、推進システムの事を指す名称であり、弾道ミサイルは当然ロケット推進を利用している。

北朝鮮の説明は、平和目的の衛星を打ち上げる宇宙ロケットだという主張だが、宇宙ロケットと軍事用ミサイルの違いは、端的に言えば、弾頭部に衛星を搭載しているのか、爆発物を搭載しているのかという違いでしかない。強いて言えば、宇宙ロケットは、一定の高度に達してから、水平方向にエンジンをふかして増速し、周回軌道に衛星を投入するように軌道が設定させているのに対して、弾道ミサイルは、いったん大気圏を出た後、弾頭部が切り離される。弾頭部はそのまま、放物線を描くように飛行し、再び大気圏に再突入し、目標に落下するという軌道をとる。

つまり、ロケットが向かう目標を、宇宙空間の周回軌道とするか、地球上の別の地点に定めるかという点だけが宇宙ロケットと弾道ミサイルの違いであり、どちらも基本的には同じものだ。事実、米国も旧ソ連も過去、弾道ミサイルを開発しながら、その技術を使って、宇宙開発を続けてきたし、宇宙開発の技術を弾道ミサイル技術に反映させてきた。したがって、宇宙ロケットか、弾道ミサイルかという議論自体がナンセンスと言える。


Q. 今回のミサイル発射の結果をみて、北朝鮮のミサイル技術が進歩しているとみていいだろうか?

A. 発射後のミサイルの飛行を記録した観測データを、各国の情報当局が分析中であり、現段階ではまだはっきりとしたことは言えない。

ただ、今回発射したテポドン2号の改良型と言われる長距離のミサイルは着実に進歩してきた。北朝鮮は10年前から、今回を含めて5回のテポドン2号の発射実験を繰り返し、ミサイルの飛行技術を磨く一方で、衛星を軌道に乗せる技術の獲得を目指してきた。

テポドン2号改良型(2016.02.07)

2006年7月5日 失敗
2009年4月5日 失敗
2012年4月13日 失敗(北朝鮮当局も公式確認)
2012年12月12日 成功
2016年2月7日  成功

以上が、北朝鮮のテポドン2号による現在までの実験の結果だが、ただ漫然と同じミサイルを繰り返しテストし続けてきたわけではない。

北朝鮮は2006年ごろから、5年ごとに計画を更新し、開発目標の重点を決めながら、ミサイルを少しずつ改良してきた。2012年の発射で、初めて衛星の打ち上げに成功したあと、北朝鮮はミサイルの飛距離と発射速度を向上させるため、テポドン2号改良型の1段目の燃料タンクの容量を増やす一方、ロケットエンジンの設計を見直し、効率の良い燃焼を実現するため、バルブシステムの改良を行ってきたと言われている。

というのは、テポドンの2号のロケットエンジンはテポドン2号のために開発したオリジナルなものではなく、別の北朝鮮の中距離ミサイル、ノドンか、ムスダンのエンジンを4発束ねて作ったクラスター型のエンジンとみられており、こうした寄せ集めのシステムで別のシステムを作る場合、エンジンとミサイル本体とを相性良く整合させる必要があり、エンジンの改良が必要になったのだろう。その結果、完成したミサイルは、これまでのタイプよりも全長が3-4メートル長くなったと思われる。

今回の発射で、二段目の部分が、あらかじめ北朝鮮が指定したフィリピン沖の海域を飛び越えた場所に落下したのは、ミサイルの発射速度の向上とエンジンの改良に成功したことを意味しているのかもしれない。

また、北朝鮮は、このミサイルの開発と並行して、ミサイルの大型化に備えるため、2013年から2014年にかけて、東倉里の発射施設の西海衛星発射場を大幅に改修した。発射台の高さを、それまでのおよそ40メートルからおおよそ55メートルにかさあげしたほか、ミサイルを垂直に組み立てたあと、直立させたまま発射台に水平に移動できる新しいミサイル組み立て施設を完成させた。

北朝鮮は、こうして計画通り、たんたんと準備を整えたうえで、今回の発射を実施したようだ。実施の時期はもともと、去年10月ごろに計画していたらしいが、なんらかの技術的な理由で遅れが生じ、今月にまでずれ込んだらしい。このことが、「ミサイルの発射実験をしたあと、続いて核実験を行う」というこれまでのパターンが、今回に限って逆になった理由と思われる。


Q. 5年計画で開発を進めているとの指摘だが、北朝鮮が今後目指す、ミサイル開発のポイントとはなにか?

A. 2011年から2015年までの5年間で、北朝鮮がまず確立しようとした技術は、衛星の軌道投入技術とミサイルの誘導技術だった。

テポドン2号改良型(2016.02.07)

テポドン2号改良型(2016.02.07)

テポドン2号は、有効射程がアメリカ東海岸も狙える12000キロ以上という本格的なICBM・大陸間弾道ミサイルだから、遠方にある目標にミサイルの弾頭を正確に誘導できる精密誘導システムを開発しなくてはならない。

北朝鮮がその技術を獲得しつつあることは2009年の2回目の発射で、ある程度証明された。この時の発射では、衛星の軌道投入には失敗したものの、日本列島の上空を通過して、5000キロも離れた太平洋のミッドウェー沖の空域まで、ミサイルを正確に誘導することに成功した。そして、2012年12月の4回目の実験、さらに、今回の2016年2月の5回目の実験で、衛星の軌道投入に続けて成功し、ミサイルの誘導能力が向上していることを証明した。

問題は、2016年から2020年までの5年間だ。この間、北朝鮮は次の3つの課題に取り組もうとしているように思われる。

① 今回の発射で実現したエンジンの改良。情報筋によれば、北朝鮮は3つか4つの衛星打ち上げ用のロケットシステムをすでに開発していて、今回の発射ではそのうちの一つが使用されたが、今後、残りのロケットシステムについてもひとつひとつ実験をして、性能の確認作業をすると見られる。今後も発射は繰り返されると言うことだ。

② 再突入弾頭の開発。ICBMの完成には不可欠な大気圏へ再突入できる弾頭の開発を本格化させるだろう。大気圏に弾頭が再突入した際、大気との摩擦熱で弾頭部が燃え尽きたり、故障したりしないよう、熱に強い弾頭を開発する必要がある。

③ 静止衛星への関心。今回は日本の真南に近い方向にミサイルを発射し、衛星を打ち上げた。前回2012年の発射の際も同じ方向に発射している。単純に外国の本土の上空通過を避けた結果の判断かも知れないが、衛星の打ち上げは、地球の自転の助けを得るため、東に向けて打ち上げるのが普通であり、事実、2009年の発射では、日本列島の上空を通過する東に向けて打ち上げている。打ち上げ方向からみて、北朝鮮は静止衛星の打ち上げに関心を持っている可能性がある。前回の発射の際、北朝鮮の国家宇宙開発局という組織が声明を発表し、「衛星の打ち上げをより高高度を目指すものに発展させていく」と言明したことがある。

一般的に言って、ICBMを完成させるには、以下の技術的課題を克服しなくてはならない。

  • 核兵器がミサイルの弾頭部に搭載できるよう、小型核弾頭を開発すること
  • 長距離を飛行し、目標を正確に狙える誘導システムを開発すること
  • 大気圏に再突入し、その熱に耐えられる再突入弾頭を開発すること

北朝鮮のこれまでのミサイル発射の結果から分析すると、核弾頭の小型化や誘導システムの開発に関しては、かなり進展していることが予想される。すでにICBM開発の道のりの70パーセント程度まで来ており、再突入弾頭の実験に着手すれば、開発の最終段階と言えるだろう。


Q. 北朝鮮のICBMの配備は近い将来、現実のものになるのか?

A. 北朝鮮の現体制が今のまま続き、国際社会もそれを阻止する有効な手立てを打つことができない場合、必ず現実の脅威になるだろう。それは、米国を射程に入れるだけでなく、世界のほとんどの地域を、北朝鮮が核攻撃できるようになることを意味する。恐ろしいシナリオだが、あり得ないことではない。

北朝鮮は現在、2種類のICBM・大陸間弾道ミサイルを開発中だ。まず、今回の実験でも使われたテポドン2号の改良型。これは、北朝鮮が独自に長い時間をかけて開発しているもので、射程が推定で12000キロ以上というアメリカ全土をカバーする本格的なICBMとして開発されつつある。しかし、弱点がある。もし、将来、実戦配備されたとしても、全長が30メートルをこえる大型の固定式ミサイルのため、有事の際、発見されやすく、巡航ミサイルなどによって簡単に破壊されやすいことだ。

KN-08(2012.04.15)

KN-08(2012.04.15)

そのため、北朝鮮は、有事の際でも生き残れるよう車両に搭載された移動式のICBMを並行して開発中だ。それは、KN-08と呼ばれ、2012年4月の金日成生誕100周年を祝う軍事パレードに突然登場して、その存在が初めて明らかになった。その時、展示されたのはモックアップ(実用化を想定した模型)のと見られたが、2013年2月、東倉里の西海衛星発射場で、KN-08のロケットエンジンの燃焼試験が行われているのが初めて確認され、実際に開発中のミサイルであることがわかった。射程は推定で6000キロから9000キロ、長さが18メートル。いつでも即時発射が可能な固体燃料推進ではないかと言う見方もあるが、はっきりとしたことはわかっていない。

KN-08は北朝鮮がすでに保有している中距離ミサイル、ムスダン(射程4000キロ)と外形が似通っていることから、北朝鮮がムスダンを改良して、射程を延長し、それを中国製のトレーラー(TEL)に搭載したのがKN-08と思われる。

KN-08(2012.04.15)

KN-08(2012.04.15)

ちなみに、KN-08の原型となったムスダンは、もともとは、旧ソ連の潜水艦発射弾道ミサイル、R27(西側名SSN6)を原型に、旧ソ連の技術者の支援を受けて改良し完成させた地上発射型のミサイルであり、北朝鮮がKN-08の保有を突然、公表することができたのは、時間をかけて独自に開発する必要がなかったためとみられる。

このように、北朝鮮は、固定式、移動式の二つの種類のICBM・大陸間弾道ミサイルの開発を並行して進めている。この種類の異なる核ミサイルを並行して開発し、配備するというやり方は、有事の際の生残性を確保するため、米国、ロシアが伝統的に行ってきた核戦力の典型的な整備のパターンであり、このことは、北朝鮮が単純に周辺国に対する脅しや、外交的な駆け引きの手段として、核戦力の開発を進めているわけではないことを明確に証明している。

北朝鮮は現在の体制が続く限り、また、国際社会が阻止しない限り、今後も、着々と弾道ミサイルの開発を進め、核兵器の技術と合体させて、核戦力を完成させていくだろう。

KN-08(2012.04.15)

KN-08(2012.04.15)

RUSI Japan 理事長
秋元千明